【本日施行】中国「AIコンパニオン法」でDoubao・Qwenのエージェント機能が停止──規制がプロダクトを消す日【2026年7月15日】

2026年7月15日、中国で世界初の感情AI規制法が施行。ByteDanceのDoubaoやAlibabaのQwenがエージェント機能を一斉に停止した背景と、業務用途との線引き、日本企業への3つの示唆を解説。

【本日施行】中国「AIコンパニオン法」でDoubao・Qwenのエージェント機能が停止──規制がプロダクトを消す日【2026年7月15日】

本日、2026年7月15日、中国で「AI擬人化インタラクティブサービス管理暫行弁法」が施行された。

世界で初めて"感情でつながるAI"を正面から規制する法律だ。これに伴い、中国最大級のAIアプリであるByteDanceのDoubao(豆包)とAlibabaのQwen(通義千問)は、ユーザーが作成したAIエージェント機能を廃止。数億人が育ててきた「相棒」が、今日を境に消える。

何が起きたのか、そしてなぜ両社は「修正」ではなく「削除」を選んだのか。一次情報をもとに整理する。

施行された法律の正体

今回施行されたのは「人工知能擬人化互動服務管理暫行弁法(Interim Measures for the Administration of AI Anthropomorphic Interaction Services)」。

2026年4月10日に中国国家インターネット情報弁公室(CAC)が、国家発展改革委員会、工業情報化部、公安部、国家市場監督管理総局の4機関と共同で公布し、7月15日に施行された。2023年の生成AIサービス管理暫行弁法、2022年のディープ合成規定に続く、中国AIガバナンス体系のもう一つの柱であり、擬人化インタラクティブサービスに特化した初の部門規則だ。

重要なのは規制の射程だ。この弁法が対象とするのは、人間の人格特性・思考パターン・コミュニケーションスタイルを模倣し、継続的な感情的インタラクションを提供するAIサービス──AIコンパニオン、感情ケア、バーチャル恋人サービスなど。

一方、継続的な感情インタラクションを伴わないサービス(カスタマーサポート、知識Q&A、業務アシスタント、教育、研究用途)は明示的に適用除外とされている。つまり中国は「AIを止めた」のではない。

仕事をするエージェントは残し、心に入り込むエージェントだけを狙い撃ちにした

条文が要求していること

法律事務所各社の条文解説によれば、義務は具体的だ。

提供者はAI生成コンテンツであることのラベル付け義務を負い、ユーザーが人ではなくAIと対話していることを効果的に警告しなければならない。過度な依存や中毒の兆候を検知した場合はポップアップなどの目立つ方法で動的に注意喚起し、連続利用が2時間を超えたユーザーにはリマインドを行う。

未成年者保護は最も厳格な部分だ。バーチャル恋人やバーチャル家族といった仮想親密関係サービスの未成年者への提供は厳禁。14歳未満への提供には保護者の同意が必須で、利用時間制限・現実世界への回帰リマインダー・強化されたペアレンタルコントロールを備えた専用「未成年者モード」の構築が義務付けられた。

さらにユーザーが極端な感情を示した場合は速やかに慰撫コンテンツ(癒しコンテンツ)を生成する。自傷・自殺の意図を明示した場合には支援措置を取り、保護者や緊急連絡先へ通知する介入メカニズムまで求められる。

事業者側のハードルも高い。登録ユーザー100万人超または月間アクティブユーザー10万人超などの条件に該当すれば、セキュリティ評価が義務化される。評価範囲は訓練データのガバナンス、極端なユーザー状況への対応メカニズム、未成年者・高齢者など脆弱層の保護措置、苦情処理プロセスまで広範に及ぶ。

DoubaoとQwenに何が起きたか

Doubaoは7月3日夜の通知で「プロダクト機能調整」を理由にエージェント機能を7月15日に停止すると告知。

10月15日以降、関連データは同社プライバシーポリシーに従って処理され、アプリ内で閲覧・復元できなくなる。Qwenも7月4日に通知を出し、「擬人化インタラクティブエージェントとユーザー作成エージェント機能」を7月10日に、より広範な「Qwenエージェント機能・サービス」を7月15日に停止するとした。

Bloombergもアプリ内通知を直接確認しており、中国で最も人気のAIチャットボットであるDoubaoが、ユーザーが自分のAIペルソナをカスタマイズできる機能を7月15日に停止し、別のスタンドアロンのコンパニオンアプリへ誘導していると報じた。TencentのYuanbao(元宝)も同様の告知を出している。

当局の執行も待ったなしだった。6月26日、上海のインターネット情報当局は、なりすましやプライバシー侵害などに関連する1万4000件超の非準拠エージェントを削除したと発表。7月の期限を前にした本気の執行シグナルだった。

なぜ「修正」ではなく「削除」なのか

ここがこのニュースの核心だ。

DoubaoとQwenは禁止規定に違反したのではない。設計思想の衝突に敗れた。弁法が要求するアンチアディクション(依存防止)システム、強制的な利用通知、即時離脱メカニズム、不健全な依存のリアルタイム検知は、「ユーザーを記憶し、セッションをまたいで一貫性を保ち、継続的な関係を維持する」よう設計されたエージェントとは根本的に相容れない。

機能を作り直すのではなく、ByteDanceは停止を選び、Alibabaも同じ判断を下したとみられる。

ただし両社の対応には差がある。ByteDanceはDoubaoユーザーを別アプリ「Maoxiang(猫箱)」へ誘導し、そこで再びエージェントを作成できるとしている。一方Alibabaは同等の移行経路を発表しておらず、Qwenのエージェントデータは恒久削除される。規制準拠型プロダクトの準備状況の差が、そのままユーザー体験の差になった形だ。

失うものは小さくない。Weiboではユーザーが公然と喪失を嘆き、あるユーザーはエージェントを長年の心の支えだったと表現し、チャット履歴を簡単にエクスポートする手段がないことを嘆いた。

コスト説という別の読み筋

安全規制一辺倒の読み方に対して、興味深い異論もある。

中国金融メディアの報道によれば、Doubaoは擬人化チャットの人気により2026年6月末時点で1日数百兆トークンという使用量に達していた。これは2024年5月比で約1500倍で、ほとんど収益を生まない機能としては懲罰的な計算コストだ。規制準拠コストと計算コストの両方が「維持コスト」として重なった結果の撤退、と読むこともできる。

世界は同じ方向に動いている

これは中国だけの話ではない。米カリフォルニア州では2026年1月1日にSB 243(上院法案第243号:Companion Chatbots Act:AIチャットボットに対する安全・倫理規制法)が発効されており、米国初のAIコンパニオン規制として先行している。

中国の弁法は体系性・規制範囲・特別保護対象層のカバーにおいて世界をリードする一方、米国は州レベル先行で連邦は不在、EUはAI Actのリスクベースアプローチの中で擬人化AIを独立カテゴリとしては扱っていない。

感情AIの規制競争は、まだ始まったばかりだ。

日本企業への3つの示唆

第一に、「業務用」と「感情用」の線引きが規制の世界標準になりつつある

中国の弁法は業務アシスタントやカスタマーサポートを明確に適用除外にした。AIエージェントを業務に組み込む企業にとって、自社のユースケースがどちら側にあるかを説明できることが、今後のコンプライアンスの出発点になる。

第二に、「後付けできない要件」がある。メモリ、ペルソナ、感情的トーン、関係履歴──ユーザーに愛されるプロダクトを作る設計要素そのものが、規制対象を定義する要素になった。依存防止・未成年者保護・データエクスポート・オフボーディングは、ローンチ後に足せる機能ではなく、アーキテクチャの初期設計に含めるべき項目だ。

第三に、プラットフォーム依存リスクの実物教材として。数億人が使うサービスでも、規制ひとつで機能が消え、データが恒久削除される。AIツールを業務の中核に据えるなら、「このデータは持ち出せるか」「この機能が消えたら業務は回るか」を導入チェックリストに入れる──今日の中国が、その必要性を世界に示した。

主要一次ソース:

中国国家インターネット情報弁公室(CAC)官報:人工智能拟人化互动服务管理暂行办法(2026年4月10日公布・7月15日施行) https://www.cac.gov.cn/2026-04/10/c_1777558395078289.htm Licentium

South China Morning Post(2026年7月5日):Doubao・Qwenのユーザー向け通知の直接報道

TechNode(2026年7月6日):両社の停止スケジュールとデータ処理方針

Bird & Bird/Hogan Lovells/Latham & Watkins 各法律事務所の条文解説

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