インフラエンジニアが斬る『AI EXPO 2026』〜熱狂の裏側で見えたAI市場の「リアル」〜
インフラエンジニアの視点から『AI EXPO 2026』を徹底レポート。業務ツールへのAI組み込みやコンサル市場の実態、エッジAI、ロボット分野の進化まで、実装期に移行しつつある国内AI市場のリアルと課題を解説します。

僕はアヴァント株式会社でインフラ領域のエンジニアを担当しています。
現在ミガロホールディングスグループでは、社内で勉強会『AIキャンパス』を月次で開催しています。実業務におけるAIのトレンドやAIを使って実現できることのリアルを学んでいます。
今回、『AI EXPO』を見学してきたのは、AI EXPOを見て社内の『AIキャンパス』で得られる情報とAIを販売している市場のギャップを知り、自分の方向性を確かめたかったからです。
1.はじめに
AI EXPOのテーマを見て興味があった内容を5つに分類しました。
1.業務現場へのAI実装の動向
2.AIコンサルティング市場の実態
3.AIインフラ・エッジAIの動向
4.AI教育・人材育成の取り組み
5.ロボット・その他の注目技術
今回のAI EXPOを通じて、国内AI市場が「実装前夜から実装期」への移行段階にあると感じました。実際にAIを組み込む製品も増えてきていますが、展示は、AI未導入または導入初期の企業を対象とした支援サービスや教育ソリューション、従来製品にAIをアドオンしたものが占めていると見受けられました。
一方で、ロボット・エッジAIなどの技術面では着実な進歩も確認できました。
【この記事の結論】
● コンサル・導入支援サービスが展示の大多数を占め、市場がまだ「支援待ちの受け身ユーザ待ち」フェーズにあると考えられます。
● AIエージェントを売りにする製品はAI以前から得意とする業務領域にAIを付加した形での差別化を図っていると考えられます。
● 技術的な先進性よりも、導入・運用の容易さを訴求するサービスが目立っていました。
● ロボット・エッジAIの自律動作デモは、テクノロジーの着実な進化を視覚的に実感させるものでした。
2. 業務現場へのAI実装の動向
2-1. 既存ツールへのAI組み込み
多くの展示が、既存業務ツールにAI機能を追加する方向でAIを取り込むことを示していました。新規システムを一から開発するのではなく、現行システムへの組み込みという堅実なアプローチが主流となっています。具体的には以下のような取り組みが見られました。
● OCRへのAI組み込みによる文書認識精度の向上。
● 議事録作成ツールへのAI適用(自動生成・要約の精度向上)。
● 社内データ検索へのRAG(検索拡張生成)の活用。データ漏洩にCopilotを推す企業もあり、オンプレミス環境で動作するAIを稼働させることで流出のリスクを無くす提案も存在していました。
● データ分析プラットフォームにAIアシスト機能を統合して速度や分析の難易度を下げるとともに、伴走する提案も多数ありました。
● チャットボットの高度化(表記ゆれ対応・文書理解力向上・RAG連携・ハルシネーション制御・バックオフィスの業務AI化による定型化の促進や俗人化の削減)。
【考察】
RAGを売りにする企業が意外と目立たなかったという印象があります。RAG単体での訴求よりも、既存製品・サービスへの統合という形でRAGが実装されつつあることが伺えました。チャットボット改良における「ハルシネーション制御」や「運用改善レポート」といった実用的な課題への対応が、現場ニーズを正確に捉えていると判断できました。
2-2. K社の事例
K社は、強力な営業力を背景にしたコンサルティングサービス、データ分析ツールをメインに展示していました。
同社の場合、AIそのものを売りにするよりも、既存の強みである顧客課題解決力・営業ノウハウをデータ分析ツールに分析アシスタントとしてAIを組み合わせた形での訴求が印象的でした。
2-3.M社の事例
M社も自社ERPにアドオンしており、経費処理のOCRにAIを組み込んだ精度向上などで、AIは手軽に精度向上させる機能として組み込まれていました。
3. AIコンサルティング市場の実態
展示の中で最も多かったカテゴリがコンサルティング・導入支援でした。ただし、その内容・品質には大きなばらつきが見られたように感じています。
3-1. 市場の特徴
● 東京大学 松尾研究室出身のスタートアップが多数出展しており、ブランド力を活用したコンサルティングをメインとした展示が目立ちました。
● 「伴走型支援」を謳うコンサル企業が多く、継続的な関与を前提としたサービス設計が多い傾向が見られました。
● 支援実績を具体的に示すところから、イメージ戦略中心のリーフレットレベルまで、訴求の深度に大きな差が見られました。
● 各企業がAI以前から得意とする業務領域にAIを追加し、差別化を図っている形が多く見られました。
3-2. 注目の取り組み
AI駆動開発
展示会社の中でもAI駆動開発を行っている展示もあり、詳細な情報を聞いたところ、上流工程からAIを使っているというわけではなく、設計や製造、テストの範囲で導入しているようです。
弊社メンバーが実験的に行っているAI駆動開発プロセスについて、AI EXPOで質問を受けた際に、会社の事例として語ると無理なセールを受けないことが多くありました。それだけ弊社のアプローチのレベルが高いことを実感しました。
AIを利用した開発手法として先端的なアプローチを採用しているので、チームメンバーも手法を聞き、内容について考えてみる価値があると考えられます。
S社のAIテスト
S社は、設計書をAIに読み込ませてテストを行うアプローチを展示。ただし、テスト自体は従来のテストパターンに基づく実施であり、抜本的な変革というよりは既存手法の効率化に留まっている印象でした。金融系など、資料を社外に持ち出せない業種への適用は依然として課題があると感じます。
テスト要員の単価は、業界平均単価とのことで、資料持ち出し制限のある場合、従来のSE人月モデルに引き戻される構造的な問題も残っています。
【考察】
「コンプライアンスを守ったAIツール」と謳うサービスを確認したところ、実態はClaudeをラッピングして一般利用者の不正利用を防ぐ仕組みに過ぎなかったケースがありました。「AI対応」、「AI活用」というキーワードが多用される中、内容の実質を見極める眼が求められていると感じます。本格的なAI活用と、見かけ上のAI対応との差は今後さらに広がっていくと考えられます。
4. AIインフラ・エッジAI
4-1. エッジAIの台頭
クラウドを介さずデバイス上でリアルタイム処理を行うエッジAIの展示が注目を集めていました。
老舗半導体メーカーによる組み込みAIマイコンは、エッジ処理による外部データ漏洩リスクの排除・セキュア・バイ・デザインの設計思想を訴求しており、セキュリティ重視の製造業・金融業などへの親和性が高いと感じました。
4-2. GPUインフラ
● 大手GPU製造メーカーはシェアの高さを売りに強気の販売戦略を展開している様子が見受けられました。
● 国内でもさくらインターネットの高火力クラウドなど、国産クラウドGPUサービスも存在感を示していました。
4-3. AIガバナンスとセキュリティ
欧州のAI法(AI Act)等の規制を受け、企業の「責任あるAI」実装を支援するガバナンスツールや管理プラットフォームも注目されていました。コンプライアンス対応が、今後の重要テーマとなりそうです。
5. AI教育・人材育成の取り組み
5-1. リテラシー底上げサービス
AI教育分野では、経済産業省の「デジタルスキル標準」(DXリテラシー)を活用した教育プログラムが複数見られました。同標準で定義される5つの人材類型に基づき、各役割に必要なスキルを体系化した内容が中心となっています。
● DXトレンド・実例を中心とした入門レベルのコンテンツ
● AIリテラシーの可視化・アセスメントツール(現状把握・目標設定)
● データサイエンティスト向けの専門スキル教育
● CopilotやClaudeなどの特定ツール習熟を目的とした研修
5-2. モチベーション・エンゲージメントのAI活用
学習者の個人モチベーションをAIでアセスメントし、エンゲージメントを高めるサーベイ・分析ツールも登場していました。人材育成にAIを組み込むというアプローチは、研修効果の可視化という点で今後の広がりが期待できると感じます。
【考察】
教育コンテンツは全体的に「AIを使ったことがない・使い始めたばかり」の層向けが多く、すでに社内AI教育を実施している企業にとっては既知の内容が大半となっていました。ただし、CopilotやClaudeといった特定ツールの企業導入と組み合わせた研修ソリューションとして提供する動きは注目に値すると言えます。PPTから研修用のアバター付き動画を自動生成するツールなど、より教育意義が上がる研修資料作成の省力化を狙う製品も見られました。
6. ロボット・その他の注目技術
ロボットが自律動作するデモは、AIテクノロジーの着実な進化を肌で感じられる展示でした。実際に歩行・動作するロボットの姿に現実社会への普及を感じさせるリアリティがあり、ショーケースとしての展示を超えた実用段階を印象づけていたと思います。
【考察】
ロボット分野は他のAI展示と比べて「動いているものを見せる」という訴求力が強く、来場者の関心を最も集めていたと感じます。今後は不動産・建設・物流といった現場産業との組み合わせで、新しい市場が形成されていく可能性が高いと考えられます。
7. 総合考察と今後の視点
7-1. 市場全体の傾向
今回のAI EXPOを通じて感じた最大の知見は、「AIの民主化」が進む一方で、圧倒的な付加価値を生み出せているプレーヤーはまだ少ないという点です。
「AI導入支援」「コンサルティング」を謳う企業の多くが、各社の既存強みにAIを付け加えた形での展示に留まっており、AIそのものを核とした革新的なビジネスモデルの提示は少なかったと感じています。
7-2. 留意すべきリスクと課題
● 「AI対応」という言葉の形骸化:実態を伴わないAI訴求が増えており、内容の精査が必要と思われました。
● 資料持ち出し制限の壁:金融・医療などの規制業種では、漏洩リスクへの対応が大きなハードルとなり、AI活用の恩恵は慎重に進める必要があると考えられます。
● コンサル品質のばらつき:伴走型支援の内実が見えにくく、選定には慎重な見極めが求められます。
● 教育コンテンツの陳腐化リスク:AIの進化スピードに対し、教育コンテンツの更新が追いつかない可能性が高く、継続的な更新体制が課題となります。
● データサイエンティストの展示がAIらしく、これからニーズが高まる可能性を感じました。
7-3. 今後のチェックポイント
今回のAI EXPO全体を通して、以下の点をチェックしていきたいと考えました。
● エッジAI×セキュリティ:規制業種や機密データを扱う現場への実装可能性を継続注視。
● ロボット×業務自動化:不動産・物流・建設分野との融合ユースケースに注目。
● AI駆動開発の普及:開発プロセスへのAI統合は先進的であり、自社での検討余地がある。
● RAGの実装状況:単独訴求が減り既存ツールへの統合が進む中、品質・精度の検証が重要。
以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




